岩手県北部、三陸沿岸の野田村に位置する「アジア民族造形館」は、アジア各地の民具や仮面、衣装など、“人々の暮らしと祈り”をかたちにした造形美術品を集めた個性あふれる文化施設です。
村の小高い丘に建つ木造の静かな建物の中には、東南アジアやインド、中国、チベットなどから集められた約4,000点にもおよぶ造形作品が展示され、“アジアの魂”に触れることができる稀有な空間として、全国から文化人・研究者・旅行者が足を運んでいます。
■ 観光地概要｜静けさの中に響くアジアの造形美術
アジア民族造形館は、岩手県九戸郡野田村に1996年に開館した民族美術館です。運営母体は野田村で、元は廃校となった旧小学校の校舎を再利用して開設された地域文化施設。館内には、インドネシア、ベトナム、タイ、ネパール、中国など、アジア全域の民族文化に関する生活道具・仮面・彫像・衣装・祭礼具が展示されており、民俗学・宗教学・芸術の視点からも高く評価されています。
- 所在地：〒028-8201 岩手県九戸郡野田村大字野田6-75
- 開館時間：9:00〜17:00
- 休館日：毎週月曜日（祝日の場合は翌平日）、冬季休館（12月31日〜3月31日）
- 入館料：
大人300円／高・大学生200円／小・中学生100円
団体（20名以上）：大人250円／高・大学生150円／小・中学生50円 - 駐車場：無料（50台収容）
■ 歴史｜“捨てられる文化”を集めた一人の収集家の情熱
この造形館は、アジアの造形作品を長年にわたり収集してきた造形作家・田中忠三郎（たなか・ちゅうざぶろう）氏のコレクションをもとに開設されました。
田中氏は青森県出身で、農具や民具、宗教祭具など、**「使われてこそ意味を持つ道具たち」**を各地から収集。特にアジア各国の農村や山岳地帯を訪れ、人々の祈りや祭りの中で使われていた造形物を譲り受けてきました。
その一部を「アジアの民の美」として広く紹介し、後世に残すために野田村に寄贈されたことが、この施設の原点です。
■ 見どころ｜見応え十分のアジア美術と手仕事の世界
● 民族仮面と神像コレクション
インドネシアのバリ島、チベット、ブータンなどから集められた祭礼用の仮面や木彫りの神像が圧巻のボリュームで展示されています。日本の文化とは大きく異なる色彩・形態の中に、共通する“祈りのかたち”を感じられます。
● アジア各地の農具・生活用具
各国で使われていた脱穀器、炊飯道具、魚網、衣類などが展示され、道具を通してその地域の生活様式や風土が浮かび上がってきます。機能と美を兼ね備えた手仕事の数々に、民具の奥深さが感じられます。
● 親しみやすい館内展示
すべての展示物には日本語の説明プレートが丁寧に添えられ、民俗初心者でも十分に楽しめる構成となっています。空間全体が木の温もりに包まれており、落ち着いた雰囲気の中でゆったりと観覧できます。
■ 周辺観光地｜野田村の文化と自然も一緒に楽しもう
● 道の駅のだ（車で約3分）
野田塩やのだ塩ソフトクリーム、海産物が人気の休憩スポット。地元の物産も充実。
● 十府ヶ浦海岸（車で約5分）
防潮堤整備が進み、広く美しい海岸が復活。夕日の絶景や海風の爽快感が楽しめます。
● マリンローズパーク野田玉川（車で約15分）
かつての鉱山跡を活かした地底探検型博物館。マリンローズ（バラ輝石）の展示や体験もあり。
■ アクセス方法｜野田村中心部からも好アクセス
【車】
- 三陸沿岸道路「野田IC」から約5分
- JR三陸鉄道リアス線「陸中野田駅」から車で約3分
【公共交通】
- 三陸鉄道「陸中野田駅」から徒歩約20分、またはタクシーで5分程度
【駐車場】
- 無料駐車場（50台分）完備
■ 注意点｜観覧の際に気をつけたいこと
- 館内はフラッシュ撮影・接触禁止の展示物あり。マナーを守って見学しましょう。
- 冬季（12月31日～3月31日）は休館となるため、訪問予定は事前確認を。
- 団体での利用・学習観覧には事前予約をおすすめします（20名以上で割引あり）。
- 館内は空調完備ですが、夏季は館内もやや蒸し暑くなることがあるため服装に配慮を。
■ まとめ｜アジアの暮らしと祈りを感じる、心静かな時間
アジア民族造形館は、大きな博物館ではありませんが、一つひとつの展示品に宿る“人間の物語”を丁寧に感じることができる稀有な空間です。派手な映像や音響の演出はなくとも、木の館に静かに並べられた手仕事の数々が、訪れる人の心をじんわりと揺さぶります。
アジア文化への関心がある方、手仕事・民具・信仰芸術に興味のある方には、必ず訪れる価値のある文化的観光地です。静かで温かな展示空間で、遠い国の人々の息づかいに触れてみませんか？